「扇動」と「従北」②

 6月に入ったあたりから、韓国ではこんな記事がバズっています。

 http://www.huffingtonpost.kr/2016/05/31/story_n_10230308.html(リンク先韓国語)

見出しの名前は『홍익대 앞 '일베 손모양' 조형물 밤 사이 파손됐다』「公益大学前“イルベ手形”造形物、夜間に破損される」。

 事件の概要は、芸術大学として名高い弘益大学で展示された彫刻が、その内容の芸術性をめぐり論争が起こっていましたが、その最中であった、6月1日の夜、何者かに壊され無残な姿となってしまったというものです(犯人は6月3日現在、すでに逮捕されております)。

 発端としては、韓国の芸術界における「象牙の塔」というべき弘益大学で、「イルベ」と言われる韓国のアングラ系匿名掲示板サイトの会員同士で使われる、「手印」を象った彫刻が堂々と展示されたことが問題となった理由です。ではなぜこのような事件に至ったかという話をするには「イルベ」の性格を理解する必要があります。NaverまとめやWikiに、簡単な説明があり、こんなことが書いてあります。

 イルベは元来、韓国の巨大電子掲示板群である「DCインサイド」から、内容が過激・有害であるとされて管理人に削除された書き込みを保管するまとめサイトを発祥としている。その後、「DCインサイド」の寄生サイトから、独立したコンテンツを持つ右派的コミュニティーとして成長した。2012年(平成24年)頃には月間閲覧者数400万人、月間PV10億を超えるサイトとなった。

成長の背景には韓国における経済危機を切っ掛けとした、経済格差の拡大、非正規雇用の増加、それに伴う不満層の拡大があると指摘されているが、全てのイルベ利用者が貧困層というわけではなく、標準以上の所得を得ている層にも利用者がいる。

 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E5%88%8A%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%A2

イルベは、独裁政権時代への回帰思想や、民主化を否定するような差別的な内容を繰り返し書き込むことで、保守層の“隠された本音”を代弁

 http://matome.naver.jp/odai/2137844703913946501

 ただ、これを読んだだけだと、韓国のリベラル(とその支持者)がここまで「イルベ」に敵対心を示すのか、というのはわかりにくいと思います。特に、韓国の民主化運動を全く知らない若い世代の方にとっては、あまりこのような動きが意味する、韓国社会にとっての深刻さは伝わりづらいのではないでしょうか。

 確かに、サイト自体は極右的な思想(外国人排斥等)はありますが、イルベを語るときに多くの人びとが危惧し、批判しているのはこの「イルベ」が(少なくとも90年代後半以降の)現代韓国社会の根幹をなしている「軍部独裁への反対」を否定し、懐古主義的かつ非民主主義指向の考え方が色濃く出ているためだと思われます。

 韓国は戦後、長い間軍部独裁が続いており、それに対抗して多くの若者が民主化運動に参加しました。結果、これに対する弾圧等で少なくない数の人が死傷し、いまも当時の拷問による傷が癒えていない方も多くいます。そんな中で、当時の民主化運動を否定するような動きは、今の韓国社会を全否定しているようにも映るでしょう。

 ただ、イルベの人々が極右的な指向をみせるようになった原因の一端が、このような民主化運動の主役となった386世代が作り上げた現在の社会情勢にあることもまた、アイロニーです。これに関しては、なぜ若い人々が「イルベ」やその思想を支持するようになったかという考察と共に、また別の機会に書きたいと思いますが、この「イルベ」批判にはまた別の危険性が秘められています。それは、表現の自由に対する許容力が欠如していくという、社会の体力の問題とも言えるでしょう。

 ちょうど、私の知人がFacebookでとても正鵠を射ている文章を書いてくれているので、その訳を転載することで代わりとさせていただきます。。

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서울대에서도 비슷한 일이 있었다. 학생이 교내 성소수자 단체가 학교 이곳 저곳에 붙여 포스터를 하나하나 찾아내어 위에 동성애자들을 비하하는 문구가 담긴 도장을 찍었고 행위를 기록하여 졸업작품으로 전시 것이다. 서울대 안팎에서 어마어마한 반발이 일었고 주요 언론에까지 사건이 소개가 되었다.

数年前、ソウル大学でも似たようなことがあった。ある学生がセクシュアル・マイノリティ団体が学校のあっちこっちに貼ったポスターを一つ一つ探し出し、その上に同性愛者を卑下する文章の判で押し、この過程を記録して卒業作品として展示した。この時、ソウル大学内外で反発がすさまじい反発が起こり、主なメディアでもこの事件が紹介された。

그런데 정작 미대 앞에서 피켓을 들었을 법한 성소수자 단체의 반응은 예상 밖이었다. 그들은 전시 중이던 해당 '작품' 앞에 쓰레기로 정성스레 만든 꽃다발을 보내 주었고, 나아가 '도장 찍는 ' 따로 비워둔 포스터를 새로 제작해 교내에 부착했다. 그들은 이러한 재치 있는 대처로 찬사를 받았고, 해당 '작품' 그것을 제작한 학생은 상대적으로 초라해 졌다.

 だが、その大学の前でデモを起こしてもおかしくない、当のセクシュアルマ・イノリティ団体の反応は予想を覆すものだった。彼らは展示中であったその「作品」の前にゴミで丁寧に製作した花束を贈り、更には「捺印欄」を設けたポスターを新たに制作し、校内に貼り直した。彼らのこのウィットに富んだ対処は賛辞を受け、その「作品」とそれを製作した学生が、相対的によりみすぼらしい姿となった。

이번 홍대 일베 조각 사건도 이렇게 끝났어야 했다. 혐오 단체인 일베의 상징물을 교문에 거대하게 제작해 둔 행위에 대해 부정적인 반응이 나타나는 것은 당연하다. 하지만 미술로 상징되는 홍대와 그 주변지역, 하물며 야외조각전이 진행되던 공간에 전시되어 있던 작품이 누군가에 의해 파괴되는 것으로 끝났다는 것은 일베의 존재 만큼이나 암울하게 느껴진다. 한국 최고의 미술 교육 기관이라 자부하는 학교에서, 문제적 미술작품에 대한 반응이 미학적 대응이 아니라 고작 폭력과 반달리즘이란 말인가. 하물며 '표현의 자유는 절대적인 것이 아니다' 라는 포스트잇까지 붙었다고 하니, 이야 말로 일베의 철학 아닌가.

今回の弘益大学の事件も、このように終わるべきであった。ヘイト団体であるイルベの象徴を校門に大きく製作した行為に対して、否定的な反応が起こることは当然だ。しかし、美術に象徴される弘益大学とその周辺地域、ましてや野外彫刻展が行われていた空間に展示されていた作品が、誰かに破壊されるという形で終わったということは、イルベの存在自体と同じくらい、暗鬱な気分にさせられるものである。韓国最高の美術教育機関と自負する学校で、物議を醸すような作品に対する反応が美学的な反応ではなく、たかが暴力とヴァンダリズムでしかないのだというのか。さらに“表現の自由は絶対的なものではない”というポスト・イットまで添えられていたという。これこそイルベの哲学ではないか。

만약 일베 조각 작품을 만든 학생을 만나게 된다면 술이나 한잔 사주고 싶다. 그는 이렇게 작품 설명을 했다. '일베는 실재하지만 그 실체는 잘 보이지 않는다'고. 이 사건을 통해 이 명제가 참이라는 사실이 얼마나 여실히 드러났는가. 정말 무서운 것은 일베 사이트에서 한심한 글이나 쓰고 있는 자들이 아니라, 자기도 모르게 일베의 논리대로, 일베의 철학대로 사고하고 행동하는 수많은 대중이다.

もしイルベ彫刻を作った学生に会うことがあったら、一杯奢りたい。彼は作品についてこう説明した。“イルベは実在するが、その実態はよく見えない”と。この事件を通じて、この命題が真であることがなんと如実に現れたことか。真に恐ろしいことは、イルベのサイトでくだらない書き込みをしている人たちではなく、知らず知らずに自分もイルベの論理に沿って、イルベの哲学と同じように思考し、行動する多くの大衆である。

이걸 썼다고 분명 날 일베라 낙인 하는 사람이 있겠지. 그럼 난 이렇게 말해 주련다.
'야 이 일베야, 일베에 관해 이야기 하는 사람들이 일베인 게 아니야. 너희같이 일베처럼 행동하는 게 진짜 일베지!'

 この文章を書くことで、きっと私にイルベというレッテル貼りをする人もいるだろう。なら私はこう言ってやりたい。“このイルベ野郎、イルベについて語る人間がイルベというわけではない。あんたらみたいにイルベ的に行動することが本当のイルベだよ!”と。